特にシヴァロマは露出の少ない皇子だ。メディアに登場するとすれば記者会見ばかりで、まずこのような保養地を歩く姿など目撃されない。そもそも彼は休暇をとったことがないのだから。
ニヴル皇族専用船ヨルムンガンドが重厚なエアーを発しながらゆっくりとステーションに降り立った。
テラの伝承にあったという、世界竜の名を冠した漆黒の宇宙船は、その名に恥じぬ風格を備えている。装甲はオブシディウム合金、装備は主砲一門で、あとはモビルギア格納ハンガーのセルハッチのみである。
通常の母艦では一つから少数の飛行甲板のみだが、ヨルムンガンドでは全戦闘機を一度に出撃させられるらしい。
(あれとやりあったら、ハシリガネなんか一溜りもなかろうな)
苦笑しながらタカラ・シマは搭乗口を見上げいていた。万が一、シヴァロマが双子のデオルカンと決裂した場合、デオルカンが双子の後援たる志摩に攻撃する可能性はなくはない。このヨルムンガンドと同じ船で。
皇族を迎えたからには、相応の覚悟も必要だ。そろそろ軍備の調整を考慮すべきか。海賊からかっぱらってきた良い装備は売らずに溜め込んでいることであるし。
ミドガルズオルムが口を開けた。漆黒の船体にぽっかり穴が表れるので、妙に目立つ。ボーディングブリッジが地に伸びて、シヴァロマ皇子が姿を見せた。
「よくおいでくださいました、婿どの」
「うむ」
「こちらが志摩当主カサヌイ・シマ、こちらは妹のナナセハナ・シマです」
「そうか」
皇子は婚約者の血縁、ヤマト文化財にも少し目をやって頷くのみだった。
タカラは本日、お引き摺りの和装である。裾は仮想テクスチャなので汚れはしない。が、歩き方には注意が要る。足の長い皇子にはちんたらした歩行が鬱陶しいようだ。
「市民にお披露目せねばなりませんから、ご辛抱なさいませ」
「分かっている」
という返事も、実に苛々していた。
ステーションから出ると、仮設バリケードの外から人々がわっと歓声を上げる。無愛想な婿に代わって手を振り、志摩邸宅に入る。
「すぐに別地方に飛びますが、まずはおくつろぎください」
「ああ」
「洗浄ポッドや風呂の用意もありますが……」
「構わん」
頷きはするが、全くリラックスする様子がない。緊張しているのではなく、これが彼の常なのだろう。軽食や酒を出されても、シヴァロマに用意したソファでじっと前を見つめるのみだ。
タカラのほうは、遠慮なく軽食をぱくついていた。自分が好きに振る舞うことで、シヴァロマの気持ちをほぐしたかった。まあ、好物の里芋田楽が食べたかっただけでもある。甘辛味噌の焼き団子も実に絶品。
程なくして志摩邸を出発。南地方までスカイライナーでひとっ飛びして、分社のほうまで田園地帯を歩いた。収穫が終わった後なので風景が寒々しいのが残念だ。
そして分社にて昼食。さすがに、シヴァロマは料理に口をつけた。
皇族たるものあらゆる食器の扱いを心得ているらしく、箸さばきが巧みである。しかし、焼き魚には箸をつけなかった。栗きんとんはお好みだったのか、全てたいらげた。この分だと薩摩芋もお好みかもしれない。そのうち薩摩から仕入れよう。
南分社を出て次は北へ。ちょうど八つ時なので、北分社では柚子きり蕎麦や白玉ぜんざいが出た。
「若さま、白玉はたんとおかわりがありますから沢山食べてくださいね」
「わーありがとー」
ふくふくした下膨れの顔をした巫女のおばさんに甘えて、蕎麦を二杯、ぜんざいを三杯おかわりした。最後に志摩茶と漬物を頂いて、大満足。
それから東西と裏側の分社を巡り、人々に愛想ふりまき、夕食の祝い膳に舌鼓を打っていると、これまで口を開かなかったシヴァロマが勘弁ならぬという表情でタカラを睨んだ。
「……どれだけ食うのだ、お前は!」
「ふほっ」
もぐもぐ、ごくん。
鯛の塩釜焼き美味しいです。
「黙って見ておれば、貴様、朝から行く先行く先で延々食っておるではないか」
「ほうでふ?」
「はしたない! それでも王族かっ。食うか話すかどちらかにせよ!」
「………」
ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく
「……食うのをやめぬか!!」
怒鳴られて、最後の一口を嚥下する。そしてへらっと笑った。
「婿どのは、少食ですねえ」
「予定があるのにそう腹を満たせるか」
「腹が減っては戦が出来ぬですよー。軍人たるもの、食べられる時に食べねば」
「一理あるが、貴様、体脂肪率はどうなっている」
「たいしぼー率……」
首を傾げ、腕を組み、考え込んでから、
「腹は出てないし、鍛えてますし、でぶって言われたことないから大丈夫かと」
「明らかに消費カロリー以上のエネルギーを摂取しているだろう!」
ご不興をかってしまった。
しかし、このくらいで堪える性格なら、クラミツは苦労していない。天ぷらが冷めるので食事再開。あ、ごはんのおかわりお願いします。
婿どのは頭を抱えてしまった。
「………初夜までにはその腹の中身を残らず洗浄しておけ。胃の腑にも残すな」
「初夜!?」
驚きのあまり、飯が喉に。圧迫感に苦しんで胸元をどんどん叩く。
「んぐっ、初夜はないかと思っておりました」
「規律は規律だ。仕方あるまい」
実に嫌そうだ。検分があるでなし、ヤったことにして口裏を合わせれば済むのではなかろうか。
(初夜……初夜か)
確かに一応、全身磨いてあるが、実感はなかった。
それと、休養中に房中術を習うには習ったのだが、男根の張り型にどうにも我慢ならず、咥えると必ず噛み砕いた。強顎は健在だ。
「そのように皇子殿下まで噛みちぎってしまうおつもりですか!」
と先生に叱られ、まず尺八で馴らすことに。
日がな一日尺八をぴろぴろすることによって、尺八の腕が上達した。そのうちハシリガネで披露しようかと思っている。フェラチオンのほうは全く上達しなかった。相変わらず、それっぽい形のものはキノコだろうがドアノブだろうが噛みちぎる。もはや習性だ。
シヴァロマが強制さえしなければ問題ないはずだが、どうだろう。先に言うべきだろうか。
しかし、その晩、心配は杞憂であったと思い知らされる。
形ばかりの心のこもらない祝言の後、さんざん腸洗浄して床で待ち構えているところへ、Dスーツ姿のシヴァロマ皇子が現れた。宇宙服である。バックエアがシュコーシュコーと酸素提供していた。完全防備にも程があるだろう。
「あの……そこまでして寝る必要ありますかね」
「規律は規律だ」
腹を決めた男の声音だ。
「タカラ・シマ。貴様は受け身の経験はあるか」
覚えてなかろうとは思っていたが、自分がタカラを救出したことだけでなく、タカラが誘拐された事件自体、ご存知ない様子。
ここまで綺麗さっぱり忘れ去られていると却って心地いい。素直に「ないです」と答えた。腐界では何千万人の男と寝たか知れないタカラだが、ほぼ処女同然である。セカンドバージンというやつだろうか。違うだろうか。
「ではそのように扱う」
皇子が指を鳴らすと爆音が響き「すわテロか!」と慄くが、どうも皇子が指を鳴らした音らしい。どういう材質の骨なら、あんな音が出るのだ。
外からワラワラと皇軍警察官たちが突入してきた。特殊部隊さながらの動作である。実際、特殊部隊なのかもしれない。
志摩宙軍では逆立ちしても及ばぬ見事な身のこなしで、彼らは様々な機材を持ち込み、テーブルの上に各種小物を揃える。志摩側でも準備したが、ローションや張り型くらいだ。
「閣下、ご武運を!」
ざっと一列に並んだ警官が敬礼して退去。
唖然とするタカラを尻目に、婿は窪みがある謎のブロックを二つ、寝台の上に置いた。
「横になれ」
前へならえ、と同じ語調の号令である。言われるままに、のそのそベッドに上がって仰向けに寝た。
「わひゃ」
無造作にとられた足首を大きく開かされ、思わず肌襦袢の裾をおさえる。下には何も着けていない。
シヴァロマはそういった初夜の相手に一切かまわず、例のブロックに腿を乗せ、上から同じブロックをかぶせて足を固定させた。もう片方も同じように拘束される。このブロック、見た目よりずっと重く、マットレスに食い込んでいる。大きく開脚して局部を晒す間抜けな状態にひきつる。
次に、シヴァロマは帯を外さぬままタカラの合わせを下ろした。何やら腕まで上手く動かない。
露わになった乳首に、コードのついた吸盤のようなものをつけられた。押し当てると空気が吸いだされてきゅっと締まる。変な感覚だ。
「うわっ」
急に尻穴が濡れる。何をされたのかよく分からない。が、婿が防護手袋でポンプを持っている様子を見る限り、ローションかワセリンと推測される。
それから彼はコードのついた不思議な突起物ついた棒? のようなものを持ち、
「苦痛はないと思うが、耐えろ」
「何を!? うひぎゃ」
躊躇なく突っ込んだ。
タカラには分からなかったが、例の『棒のようなもの』は前立腺を刺激する形状になっている。
大した大きさではないので、痛みはない。が、ちくちくする。
もうそろそろ見栄を張って「ヤリケツマンビッチですぅウヘヘ早く突っ込んでカモン」とでも言えば良かったと後悔し始めた。痔くらい現代の医療機器ならすぐに治る。入れてズコバコしてそれで終るなら、そのほうがましだった。
というのも、シヴァロマが持ち込んだ機材、変態御用達・調教用の逸品らしい。かなり後になってから知った。様々な犯罪に関わってきた彼は、この機材が誘拐された婦女子に使用される現場に踏み込んだこともあり、それで知っていたとか。
因みにこの機材自体は、違法ではない。あくまで合意の上で使うことを前提とした製品だ。アホほど高価だが。仮想次元のショップを覗いて後悔した。
そのような事情を知らぬ今現在のタカラ・シマは、乳首と尻を襲うぴりぴりした刺激に混乱していた。
「ひぁっ、ぁ…あ、あんん……」
思わずそんな鼻から抜けるような声が出てしまう。時折大きな波がきて、体が勝手にビクビク跳ねた。じわりとした熱が性器に溜まり、触られてもいないのに反り返ってどろどろ先走りで腹を濡らしていた。
「あぁはッ…んぅう。ひッ、んっ……ひ、ぁ……んぁあ」
きゅうきゅう乳首を締めつける吸盤が断続的に痛痒い。尻は……どうなっているのか自分で分からぬが、焼けるように熱いし、括約筋が切なくて器具に食いつく。何やらもどかしい。指を突っ込んで掻き毟りたい衝動に襲われる。治りかけの傷がじんじん痒みを訴える感覚に、近い気がした。
「そろそろか」
腕を組んでタカラが悶える姿を監視していた婿どのが、尻の器具を引き抜いた。もっと優しく! ちゅぽんと音を立てて一気に出たものだから、衝撃で腰が痙攣した。
「あ……あ、あ…あぁ」
だらしなく舌を出してぼろぼろ涙を流す。これが所謂アヘ顔というやつなのかそうなのか。目はきっとレイプ目というものになっているに違いない。
しかし、これでやっと合体してズコズコして終われる……と安堵したのも束の間、下準備はまだ終わっていなかった。
「ぎゃっふ」
また何か突っ込まれた、今度は黒くて萎んだ何かを。
ピッ、ピッ―――
規則正しい機材の電子音とともに、尻の中の器具が膨らみ、アナルが拡がる。それ以上は、と目を瞑るところで、プシューと空気が抜けた。
「はぁっ、はぁ……っ」
何だろうこの謎の緊張感。気分は分娩台に乗せられた妊婦。機材のリズムがラマーズ法に似ていて余計に嫌だ。
ピッピ、と更に器具は膨らんだ。もうだめ、と思うところで、再び萎む。もう一度。更にもう一度。二度あれば三度。
だんだん慣れてきた、とすっかり疲弊して天井を見上げて油断するころ、それは起こった。
ヴ…ヴヴヴ……ヴー、グリュングリュン
「ひぎっ…うぎゃあぁあ…!」
なんと中の器具が振動しながら膨らんだり萎んだりしながら、アナルの縁をマッサージし始めたのだ。中に小さな揉み玉が入っているらしく、回転しながら絶妙に襞をもみもみと。
さんざん拡張されたので痛くはない、痛くはないが……
尻穴の裏(・)から揉まれる(・・・・)経験など、そうはなかろう。あってたまるか。
ヴッ ヴッ ヴ プシュゥウウ……
止まった。漸く止まってくれた。今度は生理的な涙ではなく、安堵の涙が頬を濡らす。タカラはこの時はじめてマリッジブルーを覚えていた。
「あぅ」
すっかり緩くなったソコから器具がにゅるんと引きぬかれた。途端、ゾクゾクした快感が全身を奔り、背を反らせて打ち震える。
すっかり改造された我が身が恐ろしい。これが腐界でよく見る『ケツマンコ』状態か。これがそうかそうなのか。仮想次元だけのファンタジーだと思っていたが、信仰を持って実現してしまったのか。ということはいずれ、突っ込まれるだけで潮吹きまくりイキっぱなしになるのか。死にたい。
これだけの入念な処理を加えてから、ようやく、シヴァロマは自らの手でタカラの腰を掴み、立ったまま、Dスーツから出た謎の突起……完全密閉された分厚いゴム状の突起物を、押し当てた。中身はおそらくシヴァロマのペニスだろうが、ねえそれヤったことになります?
「あ…ん、はぁっ」
先端がずるんと押し入ってきた。何というか、この時点で相当、穴が広がっている。大した巨根だ。なるほど、あれくらい拡張しないと、これは入らなかったろう。
「お前……」
久々に婿どのが言葉を発した。が、タカラはまともに受け答え出来る状態にない。
「やはり過剰摂取ではないか! なんだこの柔い肌は!!」
「あんっや…やぁん!」
そんな叱りながら、ずっぷり奥まで。やばい、気持ちいい、もう何だっていい。
「胸筋も大殿筋もこのように!」
「ひぃっ、ちゃ、ちゃんと腹筋割れっあっあっ」
「あれほど食して遅筋繊維ばかり鍛えていればこうもなろう!」
「あ…、いやぁ…っ、ゆる…し、あうぁあぅうう」
時間をかけて調教したとはいえ、始めてなのにこの仕打ち。文字通り、ズッコンバッコン。固定された足が動く範囲で暴れ、つま先は丸まる。更に言うと、吸い付いたままの乳首の吸盤が地味に辛い。
というかこれは、何プレイというのだろう。お仕置き? 何か違うような。そもそも初夜でお仕置きプレイもどうだろう。
それからタカラの名誉のために追記しておくと、別に彼は肥満体ではない。むしろ身長に対してウェイトがなさすぎる程だ。ただ、よく食べる割に体脂肪率を気にしないのは確かで、痩せぎすではなく肉付きはよい。体脂肪率を親の敵のように憎むアダムアイルの皇族からすると、白いもち肌が妙にむっちりして見えるのだ。
「全く……!!」
「あっあっああっ」
激しく腰を使いながら、皇子は苦々しく吐き捨てる。
「次までにそのけしからん肉体を鍛え直すがいい!」
「へ、なに…?? あ、や! やあっ……!! ッんぁあああッん」
何か変なじわじわした強い快感の波が押し寄せ、頭の中が白く染まる。耐え難い快楽が神経を犯し、タカラはガクガク震えながら力尽きた。
タカラから巨根を引き抜いた皇子は「フン」と鼻を鳴らし、添い寝するでもなく出ていった。あのスーツで添い寝されても、それはそれで困るが。
(……あの皇子、よく勃ったよなあ)
呆然と手足を投げ出したまま、タカラはそのことに感心していた。
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